フランスの優勝で幕を閉じたロシアW杯は、日本代表の躍進やVAR判定など話題の尽きないW杯でした。
決勝のカードは「フランス×クロアチア」。決勝戦は結果として、VARがありながらも審判の判定が試合を決定づける少し残念なゲームとなりました。
まぁ、そもそもサッカーはルール上、先制したチームがリードを守りきれば勝てるわけで、お互いが噛み合う好ゲームの方が割合が少ないのは事実です。
そんな中でも、今大会は印象に残るゲームがいくつもありました。
前回のブラジル大会は、死のグループが多かったゆえにグループリーグが面白く、決勝トーナメントは手堅い試合が多かった気がします。
一方、今回のロシア大会はグループリーグもトーナメントもバランス良く好ゲームがありました。
観戦した試合数は全体の半分にも満たないですが、今大会で面白かったゲームをランキング形式で振り返ってみます。
5位:フランス×ベルギー
『守備固めはW杯における最高の戦術』
お互い好調なチーム同士のぶつかった準決勝です。得点が入ったのはCKからの1点のみですが、戦術合戦が面白かった。
ベルギーはディフェンス時とオフェンス時でディフェンスの枚数が代わる変則的な布陣を敷いてきました。この日は、累積警告で出場停止のカニエに変わり、右のウィングバックにシャドリが入ります。相手エースのポグバにはフェライニのマンマークをつけて、左サイドのアザールで1対1の局面をつくり、決定機を演出します。
ベルギーの戦略は序盤こそは有効でしたが、段々とフランス側が対応していき、結局フランスに1点を先制されてそのまま敗戦。先制後のフランスが全員で守っていたのは事実ですが、追いかけるベルギーは一度も決定機を作れなかったのが印象的でした。
サッカーってリードしてるチームが本気で守ると、攻めてるチームはなす術がないのか。試合を見ながらそんなことを考えてました。(個人的にはもっとアーリークロス上げるべきだと思っていて、ベルギーはボール保持していても攻撃の回数は少なかった印象です)
私自身、クラシコの打ち合いを筆頭にして、近年はアタッカーの技術力の進化を感じていて、サッカーは攻撃陣が有利なスポーツに変貌しつつあると思っていたのですが、結局この試合は守備に徹したチームが勝利をものにしたのでした。
一発勝負でセットプレーの1点を守りきるチームが勝ち残る中で、いかにトーナメントを面白くしていくか。VARがサッカーを変えるように、まだまだルール上でも変わる余地のあるスポーツだと思っています。
4位:フランス×アルゼンチン
『アルゼンチンを蘇らせたディ・マリアの一撃』
この試合はスーパーゴールが多かった。見ていて楽しいゲームでした。
アルゼンチンはグループリーグから苦戦が続き、戦術的にも特筆すべきものがないチームでしたが、ディ・マリアの同点弾がチームの雰囲気を変えました。
やはりサッカーというのはゴールが大事で、一発のゴールが選手のパフォーマンスも試合の流れも一変させます。
結局、最終的にはムバッペが爆発してフランスがアルゼンチンを突き放したのですが、ディ・マリアの一発によって打ち合いが生まれた好ゲームでした。
欲をいうなら、アグエロが1点取り返した後にメッシの右足での同点弾が決まって延長戦まで見たかったな。
3位:日本×セネガル
「W杯で二度追いつける日本に驚き、喜んだ」
グループリーグ第二戦のこの一戦は、互いに勝ち星を分け合うゲームとなりました。
この試合で評価したいのは、2点のビハインドから日本が追いついたということ。日本代表は2回もリード許しましたが、流れの中から形を作ってゴールを2回決め返しました。日本代表がW杯で粘り強い戦いができることに興奮したゲームでした。
コロンビア戦でも武器になっていましたが、日本は左サイドから攻撃を組み立てます。長友が高い位置を陣取ってからの、乾、柴崎、香川との連携。日本代表が相手をいなしながらも、ペナルティエリアに侵入しては再三チャンスを作っている姿は誇らしかったです。
サイドバックの攻撃参加や中盤の構成力は歴代の日本代表も得意の形でしたが、昌子からのビルドアップや大迫のポストプレーが中盤をサポートするサッカーはこれまでの代表レベルから、さらに質の上がった戦い方にみえました。
中盤での主導権を握るために、センターバックやフォワードからのサポートを合わせて戦う、現代サッカーをきちんと消化して体現できてることに驚きました。
ほんとに面白いサッカーで、なおかつ点も取れたので、引き分けという結果以上に価値のあるゲームだと思います。
2位:スペイン×ポルトガル
『W杯開幕を世界に告げる最高峰のエンターテイメント』
ロシアW杯開催2日目に行われた、本当の意味でのW杯の開幕を告げるエンターテイメントなゲームでした。
詳しいゲーム内容は忘れかけているので割愛しますが、ポゼッションを軸に攻守を構成するスペイン対クリスティアーノ・ロナウドの決定力にかけるポルトガルといった構図でしたた。
忘れがちですが、ディエゴコスタの先制点は凄かったですね。あのゴールは、囲まれて八方塞がりに見えたコスタが、僅かな隙間を縫って決めてしまった。
あのゴールを見て大舞台で頼りになるのは個人技だということを実感しました。(前回ブラジル大会でスペインを相手にぶっちぎって一人で決めたロッベンのゴールもすごかった)
そして、このゲームの主役はハットトリックのクリスティアーノ・ロナウド。終了間際のFKはもはや伝説級ですが、1点目の冷静にPKを貰って、それを決めてしまうあたり。
マドリーの同僚が多いスペイン相手に、淡々と自分の仕事をやってのける姿勢(そのあとユーベに移籍しましたが)
まさしくプロの鑑だと思いました。
1位:ベルギー×日本
『全力を出し切って負けるという悔しさと負け方の美学』
私がこれまで見たサッカーの試合で一番感動した試合でした。日本代表の選手は皆100%以上の力を出して戦っていました。応援してるという感情も入ってるからでしょうが、これまで選手全員が100%以上の力を出して戦った試合はこれまで見た記憶がありません。
(気合が空回りする試合はよく見ますが、全員のパフォーマンスが向上した試合って記憶にないんですよね。連戦だった柴崎の疲れがなければさらにもっとやれたと思ってます)
序盤から攻め込まれる場面が多かったですが、日本代表は懸命に守備をしました。なによりシュートブロックが徹底されてました。解説の山本浩氏も仰っていましたが、シュートに対して必ず複数でブロックに入る。吉田と昌子を中心とした気迫溢れるディフェンスはほんとに胸を打ちました。
そして、後半に入って柴崎のスルーパスで抜け出した原口の一発。クルトワ相手にあの角度から決められますか?普通に考えて。あの偶然なのか狙ったのか分からないワンテンポずらして振り抜いた一撃。ハードワークを続けていた原口が、大一番でワンチャンスをモノにしたのに感動しました。
先制の感動からつかの間、お次は乾の無回転ミドルで追加点。このゴールは香川と乾の距離感というか、まるで練習のような自然体の流れの中から打ったのが最高にかっこ良かった。乾は帰国後のインタビューで後半の始めのプレーでシュートを打つことを決めていたと語りましたが、リラックスした中で打った最高のシュートが決まりましたね。競合相手に臆することなく戦えて、その上での追加点です。朝から叫びました。
まぁしかし、後半開始の2点先制はあまりに上手く行き過ぎました。
そこからの逆転負けに関しての、たらればはたくさんあると思いましたが、やっぱり西野さんは2点リードからのパワープレーへの対抗策は準備できてなかったのかなと、私は思います。
長谷部とフェライニのマッチアップはあかんかった。(準備期間が短い中で迎えたW杯でここまでいうのは酷ですが)
攻めに行くか、守りの人数を増やすかの対策ができてなかった。ポーランド戦の終盤に行ったような確率論で結果を最優先に考えての「勝負」ができてなかった。失点されてから同点にされるまでの間に動けなかったのは、あらかじめ策を決めてなかったからでしょう。もちろん交代カードは非常に乏しかったですが、何かを犠牲にしてでも高さ対策できるカードはあったはず(たらればですが)
早い時間帯でのリードから逃げ切れない日本の脆さは長年の課題ですね。
とはいっても、この試合は追いつかれてからも希望はあった。
本田圭佑が交代で入ってから、日本は再びリズムを作り始め、そして最高の見せ場でFKを放ちます。
あの最重要局面で無回転の弾道を枠に打てるメンタル。
惜しくもクルトワにはじかれましたが、役者は出尽くしました。
勢い付く日本はその後のCKから試合を決めにいくも、クルトワにキャッチされてしまいます。
そこからクルトワ→デブライネ→ムニエ→(ルカク)→シャドリという世界最高峰のカウンターを決められ試合終了。
持てる出し切ったうえでひっくり返されての敗戦。ポーランド戦での先発メンバー入れかえという賭けに勝ったうえで臨んだ大一番でしたが世界の壁は厚かったのです。
「何が足りなかったんでしょうねぇ」という試合終了直後の西野監督のインタビューは、選手を信じて本気で勝ちにいった監督の感情のすべて詰まった言葉でした。
長谷部誠と本田圭佑の代表引退もあり、もうこのメンバーで戦う姿は見れないという儚さ。
試合後の余韻も含めて、過去最高に感動的な負け方でした。
W杯を終えて思うこと
「日本人の俊敏性や技術を活かした戦い方」は世界でも武器になりました。
今回のW杯を見て、私はそういった試合をもっとたくさん見て応援したいと思いました。海外で活躍するクラブチームでもそうですし、他のスポーツでも同様です。
W杯と並行して行われたテニスのウィンブルドンでは、錦織圭が芝コートでの初めてベスト8入りを果たし、準々決勝では宿敵ジョコビッチ相手に善戦しました。
錦織圭はジョコビッチ相手にはここ数年間負け続けていますが、準決勝のジョコビッチとナダルの一戦を見れば、戦っている相手の次元の高さを思い知らされました。
俊敏性と技術の高さを活かした戦い方は、日本人の強みであり、なおかつ見ていて面白い。その戦い方に、日本人以外のファンがなり、応援したくなるのも納得します。
これからの時代、そういった戦い方で世界の頂点を目指す戦いがこそが、最高のエンターテインメントだと思います。
だからこそ世界の頂点に挑む日本人をもっともっと応援しようと思うのです。
以上。